激昂の春


僕は輪の中心にいて、彼女はゆったりと輪の奥に構えていた。
僕は道化で、彼女はしらけた観客だった。

彼女はときどき周囲につつかれたように本物のような造り物のような微笑を浮かべ、
ときおり、そこにいながらいなくなったように、微笑むのを忘れる。
彼女は決して、僕の方を見ない。

彼女の気配は、ときどき僕の視線を吸い寄せたが、
ときおりいなくなる彼女の心が、ついに戻らなくなるのを見るのが恐くなり、
僕も彼女への視線を閉ざした。

僕のテンションは益々上昇し、人々の期待のまなざしを集めた。
そして僕の舌はもつれ、ぐにゃぐにゃと歪んでゆく空間の中で、
視線だけは正確に彼女を迂回して漂わせた。

周囲は、装った春めかしいピンクの花畑に変わり、
軽く、暖かい風にそよそよと揺れさざめいていた。
僕はその花畑に次第に心地よく埋もれていった。

その甘美な光景をデッサンしておこうと、
頭の中のキャンバスを広げたそのとき、
突風が吹き付け、すべてを薙ぎ払った。 ピンクの花畑は色を失い、
気が付くと、輪の中心に白い水仙が楚々と凛々しく立っているのを僕は見た。

その花は、荒れ狂う嵐の中、一定のリズムで艶かしく揺れ、
僕を激しくそそり立たせ、そして、一瞬にして果てさせた。

再び僕の視野が戻ったとき、僕はまたピンクの花畑に立っていた。
水仙の濃厚な残り香が、嵐の最後の一吹きでかき消えてしまう前に、
僕は必死でシャッターを切り、心のキャンバスに揺れる水仙を焼きつけた。