箱舟


毎日が緊張の連続だった。
僕は自分の居場所を探してキャンパス中を歩き回った。
足が棒になるまであちこちの教室を覗き、図書館を散策し、
いろんな部室に入っては出てきたが、
僕の居場所と思えるところは、なかなか見つからなかった。

ある日、キャンパスの片隅に小さな古ぼけた小屋を見つけた。
入ってみると、天使のような少年が独り何かを懸命に組み立てていた。

僕は邪魔しないように、少し離れた場所に座って一部始終を観察した。
少年は僕が入ってきて観察し始めたことなど全く意に介さない様子で、
額から汗を滲ませながら金槌を振るった。

暗くなっても彼は休もうとしなかったので、僕は諦めて家に帰ったが、
その晩は久しぶりに不思議な安堵感に包まれて
ぐっすりと眠れたのだった。

次の日、僕はまたキャンパスに出向き、
あの少年がいた小屋を目指した。
僕は思い切って少年に声をかけることにして、こう尋ねた。
「ねぇ、いったい何を造っているのさ?」
すると、少年は眩しそうな笑顔をこちらに向けて、
「舟だよ。大きな白い舟をね。」と答え、
しばらく躊躇してこう付け加えた。
「卒業したらこの舟で海へ出るんだ。君も一緒に来るかい?」

僕は特に卒業してからの予定は立てていなかったので、
「あぁ、悪くない。」と答えた。
舟を造ることにも、海へ出ることにも特に興味はなかったのだが、
そこが僕の唯一の安住の地に思えたからだ。

それからというもの、僕は好きなときに小屋に行き、
好きなだけそこで過ごした。
舟を造る少年の傍に座って、ギターを弾き、歌を歌いながら。