共鳴


それが恋じゃないことは、僕にも彼女にも分かっていたはずだった。
僕らは、大雨で不通になった電車のせいで、どこにも帰れず、
夕方の校舎に転がり込んで、息をはずませていた。

稲妻が三度光って、雷が一度鳴る。
三度光る稲妻は、僕らのほかに誰もいない校舎全体を薄紫色に浮かび
上がらせ、それは、どんな花火大会よりも妖艶なショーに思えた。
雷鳴が轟き渡ると、緩みかけた鼓動のネジが再び巻き上がる。

「これだけうるさいと、大きな声で歌いたくなるわね。」
彼女は、とても楽し気にそう言い、オルガンの蓋を開けて不可思議な
リズムの曲を奏でながら歌い始めた。
その曲は、三度光る稲妻のリズムとシンクロし、一度鳴る雷のところで
ブレイクし、雷鳴が止んだ静けさのところで艶かしいメロディーライン
のサビがくる。稲妻と雷の間隔は、どんどんと短くなっていき、その曲
もそれに合わせてテンポアップしていった。

僕は、窓のそばに立ってその曲を聴きながら、稲妻のショーを眺めて
いたが、繰り返し繰り返し聴いているうちに、どうしようもなくむずむず
と沸き上がってくるものが、稲妻のせいなのか、この曲のせいなのか
分からなくなってしまった。

あきらめて僕は考えるのをやめ、携帯用の小さなアンプにギター繋い
で、その曲に無理矢理ギターソロで割って入った。
「それは、反則でしょう。」
彼女は笑いながらそう言って、ひるまずに伴奏を続けつつ、
「いい?あと一回し演ったらタクシーで帰るわよ。」と付け足した。

稲妻が三度光り、そして、雷は鳴らなかった。