到来


「ねぇ、もう夏なの?ほんとに夏?」
子供がうるさく母親を問い詰める。

窓の外は薄曇り。
辺りには信じられない涼しい寒さが降りたち、電車の中には生温い安堵
があり、所在なく見上げる中吊りには、めぼしい話題がなかった。

「いっそ、土砂降りになればいい。」
そのとき、彼はそう言ったのだった。