Nomad


彼女が去ったゲルの中は、とにかく殺伐として、妙に埃っぽかった。

僕らは、冬の間、来る日も来る日も一緒に眠り、一緒に目覚めた。
あるときは満天の星空を仰ぎながら枯れた草の上で羊の毛布に包って。
あるときは暖かいゲルの中の居心地の良いソファに羊の毛布を敷いて。

僕らは、とにかく一緒に寒さをしのぎ、
暖かさを共有できればそれで良かった。

僕は、そのあまりの心地よさに酔いしれて、
「今年は、ここに留まろうよ。」と、彼女に夢うつつに提案した。
彼女は何も答えなかったが、僕らが包っていた羊の毛布が、
一枚ずついらなくなって、とうとう一枚もいらなくなった翌朝、
僕が目覚めると、彼女の姿は跡形もなかった。

また冬が来て暖かさが必要になる頃、
彼女は僕のゲルに戻ってくるのかもしれない。

僕はゲルの埃を払い、野原で花を摘み、
殺伐としたゲルの、模様替えにとりかかった。