ひそやかな蕾


気が付くと、いつも彼が側にいた。

彼は、金色に近い薄い茶色の髪と白磁のように白い肌を持ち、
その瞳は、グレーのような緑色だった。
そしていつも、寒い冬の午後に無理矢理外に出され、
故郷を思って茫然とするライオンのように無表情だった。
その美しさは必ず人をハッとさせたが、その無表情さが彼の存在感を薄めていた。
それは花壇に整然と植えられた花のような美しさではなく、
ましてや部屋の中で過保護に育てられた胡蝶欄のような美しさでもなく、
空家の荒れ果てた庭先に、忘れ去られた球根がひっそりと芽吹いて、
蕾を付けたような美しさだった。

「これ、どうしたんだよ。」
あるとき、僕が部屋の隅に長い間放置していた球根を指差して、彼が言った。
「あぁ、いつか新聞屋がサービスにくれたんだ。」と僕はそっけなく答えた。
その球根は、『チューリップ 植え時:11月〜12月』と書かれた札がぶらさがっている
透明のビニール袋に入っており、3月が近づいていたそのときには、
自らの養分を吸い尽くしてすぼみ、それでも、わずかばかりの芽を覗かせていた。

「君には生活感というものがない」と、彼はひそやかに笑い、
僕が水をやり忘れて枯らしてしまった観葉植物を丁寧に抜いて、
土をかき混ぜ、そこに袋から取り出した四つの球根を植えた。

そのひそやかな微笑があまりに無防備だったので、
僕の心は、帆柱を失った帆のようにぐらりと揺れた。

その後、彼は毎日のように僕の部屋に来て、球根に水をやって帰って行った。
球根に水をやりながらじっと観察する彼の顔には、
いつも、あのひそやかな微笑がほんの一瞬浮かんで消えるのだった。
その瞬間を見るたびに、僕の中で何かがその微笑を、
むくむくと吸い込んでいくように感じられた。


桜が、冷えきった枝を突き破って蕾を付け、
その蕾が日に日に膨らんでいく季節のことだった。


四つの球根のうち、三つはとうとう育たなかったが、
今、僕の窓辺には一本の淡い色合いのチューリップが、ひそやかに固い蕾を付けている。