夢の欠片


乾杯の音頭とともに、僕の送別会がスタートした。
この春、僕の栄転が決まり、僕は本社に戻ることになっていた。
人々はにこやかに僕に近寄り、口々に同じような祝いの言葉を述べ、
僕の肩を親しげに叩いて発破を掛けた。

「きれいな奥さんはもらったし、本社に栄転となれば、君の将来は安泰だな。」

そう言われるたびに、僕の中で燻り続けている何かが、
殻を破って飛び出しそうになるのを僕は必死で押さえ付け、
「そんなことありませんよ。」と何気ない笑顔で応じ続けた。
(そう、僕の行く手を遮るものは、何もないのだ。)と自分に言い聞かせながら。

宴は朝まで続き、僕がやっと解放されて外に出たとき、
夜は静かに明け、空はきれいに晴れ渡っていたが、
太陽は、ぼんやりとかかった春霞に滲んで見えていた。

遠く、地の果てから湧き上がって立ち籠めた砂は春霞となって空を覆い尽くし、

それとは気付かぬうちに、少しずつ、少しずつ、大地に降り積もる。

僕は昔、遠いどこかに押しやった夢のことを思い、
鬱々とした気持ちで家路に就いた。