五月の病


あの年の五月、僕は意味もなく春の夜の海に飛び込んでずぶ濡れになっ
てみたり、意味もなく平日の夜、湖畔に出かけ、焚き火を囲んで飲み明
かしてみたりした。

そう、特に意味もなく。

ある朝目覚めると、突然、連絡もなしに友人が尋ねてきて、行くあても
なくドライブに出かけたり、ほかの友人の家に無遠慮に上がり込んで、
そのまま何日か過ごしたり、唐突に恋に落ちたり、ある瞬間たまらなく
誰かにキスしたくなったりしながら、無計画に際限なく繰り広げられる
ドラマの泥沼に、僕は深く包み込まれて過ごした。

「ねぇ、キスしようか。」

思えば、あのとき、僕はあの泥沼に足をとらわれたのかもしれない。