浸透


彼女は、ふいに僕の前に出現した理想のひとだった。

五月の気持ちよく晴れた午後のように、暑くもなく、寒くもなく、
湿り気もなく、空がちょうどよく青く、花々が美しく香り、何かを
足したり、引いたりする必要性をまるで感じさせない、フィット感
がそこにあった。

僕は毎日、あるいは日をおいて、押したり、引いたりしながら、彼女の
反応にいつまでも幸福になれたり、物足りなさを感じたりしながら、次第
に、彼女の奥深くに浸透していった。

やがて六月がきて、くる日もくる日も降り続く雨に打たれるとき、しな
だれかかる柳のように、彼女が僕の方へと傾く日がくるのを信じてみた
り、打ち消してみたりしながら。