ガラスの向こう


私の知らない一ヶ月を過ごした彼は、ずっと付け続けてくすんで
しまった指輪を宝石店に磨きに出したみたいにピカピカで淀みなかった。

「元気だった?」

彼はそう言ったきり、彼の知らない私の一ヶ月についてあれこれ聞き
出そうとはしなかった。

私たちの間に透明なガラスが張られているような感覚があり、同時に、
ガラスの向こうの彼がたまらなく欲しいという衝動に駆りたてられる。

「自分こそ元気だったの?」

私は気付かれないように、フロントガラスをみつめ、通り過ぎる
街の明かりを目で追っているふりをした。